BACK

コラムリストへ

2006年3月13日 週一回のご馳走を

といって毎日ご馳走を食べて太ってしまった私の言い訳ではない。先日体重を測ったら、ついに90キロの大台まで1kgを切ってしまって、さすがに今はセーブしてはいるが。私には週2回以上の当直勤務があるので(2月は10回を超えていた)、その間は病院食を検食するし、アルコールは当然取れないから、その他はまーいいか、とばかり過食してしまうのだ。コレステロールが生来低めであるため、あまり危機感も感じなかった。とくに7年前にタバコをピタリと止めてから、体重が一気に10kg増え、こりゃいかんとハードなダイエットをして、お腹が凹み、おお、フィリピン人みたいだと自画自賛していたら、リバウンドが来てしまった。いや、こういうプライベートなことを言おうとしたのではなかった。言いたかったのは、ALS患者の経管栄養のことである。

 ALS患者は、呼吸機能が落ちて人工呼吸器になるだけでなく、嚥下能力も喪失して、胃瘻を造設しなければならなくなることも多い。そしてそこで用いられるのは、例えば在宅ではエンシュアリキッドや、ラコールといった薬品扱いができる栄養剤であり、入院なら、アイソカルやサンエットなどの製品であろう。このうち入院用の液状食品では、極端に亜鉛や銅が少なく、微量元素欠乏症が出現することが結構あるようだ。私たちも以前に原因不明の貧血が発生して、最終的に銅貧血であることが判明したケースがある。また、これらには塩分も少なく、低ナトリウム血症なども長期間では必発となる。とくに痰が多いケースなどはナトリウムの喪失量も大きいので、出やすい。現在、当院では、亜鉛と銅の補充のため、ココア10g/日を栄養剤に追加すること、食塩を通常2g/日を入れることを原則としている。ただ、在宅をしている患者さんなどには、味噌汁の上澄みなども積極的に入れてほしいと指導はしてきた。

 先日、県北のALS患者が、呼吸のトラブルで当院に入院してきた。そのとき患者は以前使っていた胃瘻が使えなくなり、腸瘻になっていたが、これがとても苦痛で、胃瘻に戻してほしいと言われていた。そこでPEGを行って、胃瘻に戻しておいた。先日おうちを訪ねてみると、何かイルリガートルに茶色い液体が入っている。麦茶ですか?と聞くと、奥様から、「しばらく見よってくれたら分かるわ。真っ赤になるから」、と言われ、ウイスキーであることに気付いた。胃瘻からビールやワインを入れる患者は、結構いるのでそれにはたいして驚かなかったのだが、びっくりしたのは、「この人、胃瘻に戻れたから、チャンポン食べれるようになったいうて喜んどるのよ」という言葉であった。なに、チャンポン?じゃ、麺と具は奥さんが食べて、ご主人はスープを入れてあげるの?と聞くと、「いーえなこと、全部ミキサーに入れて混ぜるんよ。このひと好きやから喜ぶんでー。チャンポンだけやないんで。カレーも入れるんで。さすがにカレーのときは少し薄めるけど」というお答えであった。一部表現が正確じゃないかもしれないが。

 かなり感動した。そういえば、胃瘻があれば、確かにミキサー食が入れられる。昔はこれが一般的だったという話だってある。便利な栄養剤が出回って、このことが忘れられていた面もあるのだ。たしかに舌で味わったり、のど越しを楽しむことはできないが、胃からたちのぼる食べ物の香りと、満腹感は栄養剤では代用が効かないだろう。先日エンシュアリキッドの日本法人のGMがうちの病院を訪ねてくれたとき、甘いフレーバーだけじゃなくて、例えばポタージュ味とか出来ないのかと聞いてみた。抹茶など日本独自のフレーバーを作ろうと13種くらい試作してみたが、美味しくなかったそうで、ボツになったらしい。しかし、フレーバーに頼る必要はないのだ。実物を食べればよいわけだから。他所で闘病されている方に聞いてみると、既に実施されている方も結構いるらしい。先日ネットの掲示板では、スキヤキやたまごうどんをミキサーにかけて食べているという方がいた。思わず賛意を表明させていただいた。

 毎食普通のご飯をミキサー食にするというのは大変だから、そこまでしなくてもいいと思う。もしそんなことをするとカロリーの取り過ぎになって、大太りすること請け合いである。だけど、週1回程度、病気になる前大好きだったものを食べさせてあげませんか?イルリガートルから落とすというのではおそらく入らないから、訪看に言って、カテーテルチップという注射器の大型のものをもらって、それで吸い込んで胃瘻に押し込んでいただくと入ります。