胃瘻カテーテルによる胃潰瘍形成の危険性 2001年10月

大分協和病院内科 山本真

ALSにて、胃瘻チューブを使用している患者さんに、胃瘻カテーテルが原因と考えられる胃潰瘍が形成されたので、注意を喚起したい。

患者は1942年生まれの男性。1993年にALSを発症。1996年に気管切開下の人工呼吸管理および胃瘻作成。胃瘻には以後、汎用シリコンバルーンカテーテルやガストロボタンを使用してきたが、2001年9月13日B社製の胃瘻用バルーンカテーテルに交換した。

 

2001年9月25日、静脈麻酔下に上部消化管ファイバーを実施。患者の前庭部後壁に、出血を伴う急性期胃潰瘍の形成がみられた。潰瘍形成部以外は、食道、十二指腸も含め全く所見なく、粘膜のびらんさえ見当たらなかった。この写真は胃瘻を抜去して撮影した。
右写真の白く球形状のものが、抜去を防止するためのバルーンである。バルーン右に飛び出しているのが、胃瘻チューブの先端である。この部が、胃壁にあたるところに潰瘍の形成がみられた。
患者に使われていた胃瘻カテーテルを取り出したものである。中ほどの円盤状のプレートが、体外からカテーテルを固定するストッパーである。
バルーンの先に、カテーテルの先端が飛び出しているのがわかる。この部が胃壁を慢性的に刺激し、あるいは傷つけ潰瘍を形成したものと思われる。

 

PEGという手技の確立によって、長期経管栄養患者に、胃瘻経由の栄養投与が行われることが一般的となった。この方法は経鼻経管に比べて、患者の苦痛がなく、また誤嚥肺炎の抑制など有利な面が多い。しかし、胃瘻チューブ留置自体によって、胃が障害される可能性は考慮しておく必要がある。胃瘻先端による潰瘍形成は、大出血を来たす原因となりうるので、無視しえない副障害といえる。また、胃瘻カテーテルを使用する患者は、コンタクトに障害がある患者も多く、胃痛などの自覚症状で事前に把握できない可能性があり、重症化し、大出血ではじめて確認されるというケースも十分ありうる。今回確認された胃潰瘍は、出血を伴う急性期のものである上に、カテーテルが接触しうる部分にのみ形成されており、当該部位以外では、全く胃粘膜変化を認めなかったので、本潰瘍は偶発的なものではなく、胃瘻カテーテル自体による直接影響であると考えられた。この患者は、汎用シリコンバルーンカテーテルを使用していた時期に、胃カメラで観察しているが、そのときは全くこのような所見はなかった。その当時のカテーテルもバルーンカテタイプであったが、体外側にストッパーがなく、ときに十二指腸に引き込まれるという欠点があったのだが、今からみると、胃の中で可動性があったので、特定の部位を障害するということがなかったのではないかと推察される。障害発生時に使用していたカテーテルは、上の写真に示す円盤部分が体外で固定のため用いられ、そのため十二指腸内に引き込まれてダンピング症状を発現させるようなトラブルは発生しなくなったが、胃内に向かって直角にカテを固定させ、先端の部分が対側の胃壁の同じ部位にあたりつづけるという作用をもたらし、これが今回の潰瘍の原因となったものと考えられる。胃瘻作成が一般化するに従い、バルーンタイプのような交換が容易なカテーテルが頻用されているが、このタイプはボタンタイプに比して、胃内での突出高が大きい。さらにカテを体外でストッパーにより固定するため、胃内の同部位に先端があたり続け、粘膜を障害する可能性がより高いといえよう。胃瘻カテーテルの選択において、ストッパー付きで、バルーンから先端の硬性部が突出しているタイプは使用されるべきではないと考える。

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