NPPVと気切の併用について
(第15回日本呼吸管理学会発表)
仙台 2005年7月29日〜30日

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大分協和病院 内科 山本 真

当院では、初期の呼吸不全の状態にあるALS患者に対し、積極的にNPPVを導入してまいりました。しかしながら、ALSの呼吸不全が進行性であることや、筋力低下にもとずく痰の喀出不全が生ずること、また球麻痺による誤嚥の問題のため、通常の方法によるNPPVでは比較的早期に限界がきます。球麻痺がないか、球麻痺の程度が軽く、発声が可能である患者に対し、NPPVの状態に気切の併用を行うことによって、NPPVQOLと気切の安全性を両立でき、NPPVの期間も延長可能と思われる症例を経験してきましたので、報告いたします。

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このスライドは、現在当院で管理している大分市内の神経難病の患者さんのリストです。ほとんどがALS患者で多くが在宅療養中ですが、一部多系統萎縮症の患者なども存在しています。全25例のうち7例がバイレベルの呼吸補助装置を用いております。

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症例1

65歳の男性ALS患者。2002年7月よりNPPVを行っておりました。2003年2月に食物誤嚥により呼吸停止、緊急挿管となっております。本人との話し合いの結果、同年3月に気切造設を行いました。最近嚥下困難となり、本年5月に胃瘻造設を行いました。現在も高研PPカニューレを用いて、NPPVを鼻マスクにて継続中です。現在も会話によるコミュニケーションが可能です。

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症例2

66歳男性ALS患者。2002年8月よりNPPVを実施しております。2004年3月に痰のつまりによる意識消失、呼吸停止を経験し、気切造設をいたしました。当初は高研PPカニューレと一方向弁を用い、現在は配偶者の要望で、用手換気への変更がカニューレを変えずとも可能となる、高研ネオブレス複管を用いております。普段は内筒を抜き、一方向弁でカニューレを閉鎖し、カフも膨らませておりません。本年3月に食物誤嚥から呼吸停止を来たしましたが、気切カニューレからの用手換気を行い回復しております。明瞭な発語が可能です。

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症例3

49歳男性ALS患者。2001年6月よりNPPVを実施しております。当院におけるNPPV最長期間例です。2004年10月に痰の喀出困難が生じ、ミニトラックを緊急挿入いたしました。その後も身障施設で介護を受けておりましたが、同年12月より誤嚥肺炎頻回となり、入院。2005年2月気切造設となっております。唾液の就寝時での誤嚥の問題がありましたので、高研ネオブレス複管を用いて、日中は鼻マスクで会話を確保し、夜間は気切バイレベルの状態として、日中のQOLと夜間の安全性を確保していました。安定を得ましたので、現在は再び身障施設で介護を受けております。

ところが、最近この患者は、常時気切バイレベルを希望し、カフの減圧により会話を行うことができるようになりました。

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動画をご供覧させていただきます。

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このスライドは、私たちが考えているALSの呼吸管理の方法であります。呼吸不全がある程度進行したときに、球麻痺のない群は気切とNPPVの併用を行い、球麻痺のある群は気切バイレベルで管理してまいりました。ところが最近症例3のように、球麻痺のない群も気切バイレベルを希望する症例が出てまいりました。それは、気切バイレベルであっても、気管カニューレのカフのコントロールによって換気を確保したまま会話が可能であること、鼻マスクの装着をしなくてよいということが原因となっております。

次の症例は、TPPVの状態で当院に転院した82歳女性ALS患者の症例ですが、気管カニューレのカフ上部吸引ラインからのフローによって発語可能であったため、気切バイレベルを試したところ、会話が可能となりました。

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動画をご覧ください。 

ボリュームベンチレータによるTPPVでは、カフ減圧を行うと、換気が不十分になってしまいます。それらの機種でPSVモードにすると、ALS患者にとって負担の大きな換気となって維持が困難です。その点、フロートリガーを用いたNPPV用の機械を用いると、比較的スムーズに換気と発語が可能になる症例が存在します。 

なお、気切バイレベルは、ディーラーによって承認された方法ではありません。そのための専用の器具も供給されておりません。私たちはマリンクロット製のマウントのゴム栓を外してリーク孔を確保して、気管カニューレに接続しております。また、問題のひとつに回路外れのアラームが鳴らないということがありましたが、新機種であるニップネーザル3では、それが可能となりました。しかし、通常のボリュームベンチレータでは必須の高圧アラームはありません。患者にボリュームベンチレータを用いるか、バイレベルを用いるかは、充分な本人、介護者との協議が必要と考えます。球麻痺により会話が不能になった症例では、バイレベルによるメリットは、自発呼吸とのマッチングがよく、ファイティングを生じにくいことですが、それがなければ、通常のボリュームベンチレータへの移行が安全といえます。

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現在のところ当院では、NPPV単独はすでにゼロとなり、気切とNPPVの併用が2例、気切バイレベルが5例、うち会話可能が3例、同じく球麻痺による会話不能が2例の、計7例が神経難病患者へのバイレベルでの管理となっております。

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まとめです。

ALSの進行例で球麻痺のない症例に、NPPVと気切の併用を行い、QOLと安全性を両立することができました。

一部の症例では、気切バイレベルで、カフの減圧によって発語が可能でした。

これらの方法により、TPPVへの移行を遅らせ、患者のQOLを維持することが可能と考えられました。